父方の祖母

祖母は静岡県、私は神奈川県に住んでいました。あるとき、祖母の近くに住んでいる叔父から電話があり、祖母の遺影用の写真を本人に気づかれずに撮影して欲しいと言われました。祖母は癌を患っていたので、いずれは亡くなってしまうことが分かっていたからです。私は孫であり、写真に携わっているのですから、断る理由は見当たりませんでした。しかし自分の祖母が亡くなってしまうとは考えたくはなかったので、両親には「撮影はするけれど、遺影のつもりで撮る気はないから」と伝えていました。それからしばらくして、両親と私は旅行の予定を立て、祖母を迎えに行き、旅館に泊まりに行きました。私はもしかしたら、これが祖母と会う最後の時間になるかもしれないと思っていました。おそらく両親も同じように思っていたかもしれません。私はいつものように風景や家族の写真を撮りました。ですが、祖母一人の写真を撮るときは、緊張こそしませんでしたが、なんとも言えない悲しい気持ちになりました。祖母は私が遺影の写真を撮っているとも知らずに、柔らかな顔で笑ってくれました。しかし、後になって思えば、この時の写真でなくても、祖母は私が撮影した写真が遺影になることくらい分かっていたのかもしれません。

その後、祖母のお葬式で、普段はお会いしない親族のおばあさまに「おばあちゃんの遺影の写真が良かったから私も撮影して欲しい」と言われました。私は、急のことでとても驚きました。ですが、この時、祖母を失った悲しさと同時に、その祖母の生前の表情を見て喜んでくれた人がいることがとても嬉しかったのです。

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